芸人と旅の写真

そもそも「住みますアジア芸人」のミッションとはなんぞや? それは、笑いというエンターテインメントを通して、アジアと日本の架け橋になるということ。台湾やベトナム、インドネシアなどをまたにかけた壮大なプロジェクトに参戦中なのは、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属する11組16人です。特集2では、彼らが日常を切り取った写真とインタビューをご紹介します。写真:住みますアジア芸人
テキスト:山岡ひかる、小池花恵(and recipe)

01

インドネシア住みます芸人 そこらへん元気さん

大阪府出身。ピン芸人で、手遊びなどを使った子供向けの芸を得意とする。アキラ・コンチネンタル・フィーバーとの共作により「タフブラット」という楽曲も制作している。

  • 「インドネシアの若者に大人気のタフブラットです」

    インドネシアで一番ウケたギャグを教えてください。
    「僕はいろんなパフォーマンスをしてるんですけど、スタンダップコメディではしゃべりもやってます。まだあんまり言葉をしゃべれないときに、インドネシアで若者の使うような言葉を僕が言って、それ最初にやったときが一番ウケました。なんでお前がその言葉知ってんだよーみたいな。『ケポー』という言葉なんですけど、知りたがりだねーって意味なんです。たとえば『彼女がいるのー?』って聞かれたら、『ケポー』って。このフレーズは、インドネシアで使ったら絶対ウケます」
    02

    インドネシア住みます芸人 アキラ・コンチネンタル・フィーバーさん

    ものまね芸が得意なピン芸人。1981年9月2日生まれ。江東区の大会で優勝したこともあるほど、バトミントンが得意。バトミントンが盛んなインドネシアでは、その特技を生かした芸にも挑戦している。

    • 「マルタバというインドネシアのお菓子です」

      バトミントンが得意だそうですが?
      「江東区の大会でチャンピオンになったことがあります。インドネシアに住み始めの頃は言葉が通じなくて、バトミントンを通じてコミュニケーションをとっていました。こんなにバトミントンが盛んな国はないなと思います。いろんな人が参加しているバトミントンのコミュニティーを紹介していただいたのですが、1年中夏なのに練習用の室内には窓がひとつもないから常にサウナ状態で(笑)。下着同然でシューズも履いてないんですけど、インドネシアの人たちはすごくバトミントンがうまくて、そしてアットホームな雰囲気でした」
      03

      インドネシア住みます芸人 ザ・スリー

      コントとリアクションを中心に行う、山口健太、浦 圭太郎、濱田大輔によるお笑いトリオ。2015年4月からインドネシアに移住。人気オーディション番組でリズムネタを披露して、準優勝する。現在はラーメンのCMに出演中。

      • 濱田「ルンダンはインドネシアのソウルフードです」

      • 山口「インドネシア料理のサテタイチャンです」

      • 浦「よく行く料理屋さんの家族です」

        インドネシア行きを決めた経緯は?
        山口:外国に行こうってふつうに考えると、ものすごい決断じゃないですか。それを3人一緒に快諾したんです
        浦:頭おかしいですよね。はいってみんなで手をあげて
        山口:行く前に沖縄住みます芸人の話があって、海外住みます芸人だったらおもしろくて行きたいのになって言ったら、ちょうど1年後にチャンスがきて
        濱田:うちのおかんが超有名な占い師に息子を見てくれって頼んだらしいんです。そしたら『息子は将来アジアでスターになる』って言われたと。これはもう、その占い師さんのためにも、スターになりたいですね(笑)
        04

        タイ住みます芸人 はなずみさん

        1984年12月22日生まれ、千葉県出身のピン芸人。ミルクティー愛好家というくらいミルクティーが大好きで、甘い飲み物に目がない。多趣味であり、得意なゲームを通して日本のサブカルチャーを紹介したりしている。

        • 「タイのミルクティーです」

        • 「コーンヤーン(豚の喉肉を焼いたもの)です」

          タイでの食生活はどうですか?
          「食べ物でこれを食べたいっていうのはそこまでないんですけど、飲みものだとたくさんあって、もしかしたら日本よりもあるかもしれないです。(特集1で紹介した)ミルクティーも大好きですが、マンゴースムージー、ココナッツスムージーとか、おいしい飲みものがめっちゃあります。日本と違うのは、屋台がそこらじゅうにあって外食文化なんですよ。キッチンがついていない部屋がほとんどで、ごはんは外で食べています」
          05

          タイ住みます芸人 ぼんちきよしさん

          1976年2月29日生まれ、大阪府出身のピン芸人。趣味はラグビー観戦。タイ古式マッサージ、フットマッサージ、ベビーマッサージ、角質ケアと、特技のマッサージは免許を取得するほどの腕前。

          • 「タイ北部にある腸詰めソーセージ、サイウアです」

            異国の地で孤独を感じることはありますか?
            「タイって77県あって、僕は全県制覇するために、ひとりで旅をしています。旅に出る時は日本人が行ってないところを目指すので、孤独な時は多いです。犬に追われたり、ひったくりにあったり、オネェに追いかけられたり(笑)。事件もよく起こりますけど、でも、それも含めて笑いになって、ネタにもなりますから。全県まわったら、ほんまもんの住みます芸人の完成かなと思っています」
            06

            タイ住みます芸人 あっぱれコイズミさん

            一発ギャグを得意としている神奈川県出身のピン芸人。1979年7月13日生まれ。2015年5月からタイに移住。お笑い芸人によるプロレスごっこ団体「西口ドア」で、「小泉小鉄」という名で、レフリーとしてデビューしている。

            • 「ガパオライスです」

              タイではゲテモノ料理を体験したそうですが?
              「好んで食べるわけじゃないですけど、虫も食べれるようになりましたね。イモムシやイナゴみたいなのが、ふつうに虫の屋台でいっぱい売ってるんです。1袋だいたい20バーツだから60円ぐらい。最初は絶対にこんなのヤダって言ってたんですけど、我慢して食べたらエビと同じテイストなんです。味付けは塩こしょうで、しかもちゃんと油で揚げてあるから、けっこうおいしくて。最近は慣れたんですけど、もちろん最初はカルチャーショックを受けました。かわいらしい女性が白いマシュマロ食べてるなと思ったら、幼虫だったんで(笑)」
              07

              フィリピン住みます芸人 ほりっこしさん

              現在、お笑いコンビ「黄金時代」と組み、漫才形式で芸を披露しているピン芸人。埼玉県出身、1986年7月13日生まれ。和食料理店や10年間お好み焼屋で働いていた経験を生かし、フィリピンで日本食を紹介している。

              • 「フィリピンにあるバゴーンはエビの佃煮のような食べものです」

              • 「フィリピン料理、シニガンスープとエビです」

                フィリピンのどんなところが好きですか?
                「人ですね。江戸っ子気質なんですよ。フィリピンって給料が月に2回あったりするんです。なんでかっていうと1回で渡しちゃうと全部使っちゃうから(笑)。宵越しの金は持たないシステムはまずいってなって2回に分けているそうです。あと、おもてなし精神もすごい。僕はいま、ホームステイさせてもらってるんですけど、いくらかお金入れるよって言っても『そんなものいらねぇ、出世払いでいい』くらいな感じで。みんな、かっこいいです」
                08

                フィリピン住みます芸人 黄金時代

                井上和夫、田中一樹からなる若手お笑いコンビ。井上は、1988年5月25日生まれで広島県出身。田中は、1990年10月13日生まれの静岡県出身。元ヤンキーという経験を生かして、日本のヤンキー文化を紹介したい。

                • 井上「フィリピンにあるハンバーガーチェーン店『ジョリビー』のセットです」

                • 田中「シニガンスープです」

                  フィリピンで一番ウケたネタを教えてください。
                  田中:一発ギャグがあるんですけど、これは3歳児くらいには絶対にウケますね。『イートーブラソ!』って。まったく大人にはウケないです。フィリピンの言葉で『イートーブラーガ』が『いないいないばぁ』って言う意味なんですけど、『ブラーソ』は腕という意味なんです。『ブラーガ』と似てるから、いないいない腕、いや似てるけど、みたいな(笑)
                  井上:いや、僕は顔だと思いますね。言葉の意味とかで笑ってるんじゃなくて、たぶんこいつがあの顔でやるから笑ってるだけかなと(笑)
                  09

                  台湾住みます芸人 漫才少爺(まんざいぼんぼん)

                  太田拓郎と三木 奮からなる、2005年デビューのお笑いコンビ。太田は1984年12月28日生まれ、神奈川県出身。三木は1984年6月1日生まれ、大阪府出身で、中国語教員免許を所得するほど中国語が堪能。

                  • 太田「好きな海鮮を居酒屋で選べます」

                  • 太田「台湾料理のルーローハンと小菜(シャオチャイ)と呼ばれるおかずです」

                  • 太田「清粥小菜と言うお粥と一緒に食べるおかずです」

                  • 三木「台湾料理のジーローファンです」

                  • 太田「台湾の『臭豆腐』です」

                  • 太田「台湾の市場にある野菜売り場です」

                    台湾にはおいしいものがたくさんありますよね?
                    太田:台湾で食べ物の話は何時間でもできます。サーラーチュアンっていう、揚げパンサンドイッチみたいなのがあって、たぶんガイドブックにそんなには載ってないと思うんですけど。基隆(きろん)夜市のが一番有名かなと思います
                    三木:正直ですね、なんで台湾でこれを食べさせられるんだって思ったんですけど、本当においしいんです
                    太田:コッぺパンを揚げてそこに具材が入ってるんです。野菜とハムとちょっと甘めの台湾マヨネーズのバランスが抜群です。日本だと出せない味なので、こちらに来た方はダマされたと思って食べてほしいです
                    10

                    ベトナム住みます芸人 ダブルウィッシュ

                    漫才、歌ネタを中心に活躍している、中川新介、井手一博からなるお笑いコンビ。中川は1982年6月25日、井手は1983年2月6日生まれで、ふたりとも熊本県出身の同級生。世界地理が得意で、「教員ソング漫才」のネタを持っている。

                    • 中川「ベトナムの麺料理、フーティウコーです」

                    • 井出「ベトナムの『テテ』というクラフトビールです」

                      ベトナムでおすすめの飲みものはありますか?
                      井手:(特集1)チャーハンを選びましたけど、本当はビールをおすすめしたい。いまのベトナムは空前のクラフトビールブームなんです
                      中川:すごいですよ。北も南もクラフトビールが席巻してます
                      井手:次から次にビール屋さんができてるんですけど。そのなかで『テテ』っていうやつがあるんですよ。これ、僕は世界で一番うまいビールだと思います。ベルギーの酵母を使ってベトナムで作っていて、マジでうまいんですよ。ちょっとホワイト系で、お茶っぽい後味がするから飲みやすくて。ベトナムに来たら、絶対飲んだほうがいいと思います
                      11

                      マレーシア住みます芸人KL キンジョーさん

                      大阪府出身のピン芸人。単身でマレーシアに乗り込み、現地のことを紹介している。アメリカに住んでいた経験もあり、英語が得意。語学力を生かして英語やマレー語を駆使した新ネタ開発に取り組む。

                      • 「マレーシア料理のナシレマです」

                        マレー語はどうやってマスターしたんですか?
                        「学校には行きませんでした。正直、マレーシアに来た最初の頃はめちゃくちゃ寂しかったんですけど、でもそれは最初の頃の話であって、いまは語学力が伸びているのがうれしいです。マレーシアは多民族国家で、マレー系、中華系、インド系とあって、マレーシア人は3つ以上の言語をしゃべれないと仕事がない。最初は全然でしたけど、いまは英語とマレー語でコメディをやらせてもらってます。ひとりだから相方がいないんで、外に出て、ローカルな方としゃべって少しずつ学んで。地元の歩いてる人に突然話しかけたりしてましたね(笑)」

                        異国で暮らすを選んだ芸人さんのこと。

                        文:小池花恵(and recipe)

                         今回の特集では、「島ぜんぶでおーきな祭」第9回沖縄国際映画祭にお邪魔して、6カ国11組の住みますアジア芸人のみなさんに取材をさせていただきました。and recipe magazineは「旅と人と食」をテーマにしたサイトですが、住みますアジア芸人のみなさんは「旅」を超えてその国に「暮らし」、その国の食べ物を「食べ」、その国の「人」を笑わせるという戦いに、日々挑んでいます。
                         私は新卒で吉本興業株式会社という会社に入社し、「しゃべくりひとつで、人を幸せにする」という芸人さんのすごさを日々、目の当たりにしていましたが、自分の育った国で、自分の話している言語で人を笑わせることだけでも簡単なことじゃない。ましてや文化の違う国で、新しい言語を覚え、その国の人たちを笑わせることがどれほど大変なことかは、容易に想像がつきます。
                         取材前、住みますアジア芸人のみなさんのyoutubeを見てみると、流暢な中国語でネタを披露し現地のお客さんにちゃんとウケていたり、ベトナムの女の子とお見合いをして「初めてあった時に一番重要視するポイントは?」という質問についてベトナム語で答えたりする姿が映っていました。一般的に諸外国語をマスターするには2000〜3000時間の勉強が必要とも言われていますが、5分前後のyoutubeの映像のなかで、なにげなく話しているその国の言葉をマスターするために、どのくらい勉強をしたのか、どのくらい努力をしたのか、そのことを想像するだけで、ぐっと頭がさがりました。個人的な話で恐縮ですが、以前韓国語の勉強にはまって、語学学校に通っていた時のこと。勉強をスタートしてから、初めてのソウル旅。いままで何度も降り立ったことのあるはずの金浦空港の景色が一変していました。「何が書いてあるか、全部わかる!」そこからは楽しいと悔しいの連続。言葉が通じて楽しい。もっとしゃべりたいのに、言葉が出てこなくて悔しい。隙あらば、勉強の繰り返し。住みますアジア芸人のみなさんもこの感覚を味わったのかななんて思いながら、まだ会ったことのない芸人さんたちに自分を重ねて、興奮していました。みなさん芸人さんですから言葉を覚えるだけではだめで、話せるようになっても笑わせることができるとはかぎらない。自分との戦いの繰り返し。楽しいけれど孤独な戦いに毎日挑んでいるんだなぁ、と。
                         住みますアジア芸人のみなさんの拠点は、タイ、インドネシア、マレーシア、台湾、ベトナム、フィリピン。取材当日、集まってくださった11組のみなさんは、普段は離れた場所でそれぞれがんばっているんだけれど、同志のような一体感がありました。わいわい仲が良くて、見ているこちらがニコニコしてしまう。
                         「お笑い」という戦場で、日本で成功する確率と海外で成功する確率のどちらが高いかと言われたらそれはわかりません。どの戦場を選んで挑むにしても、新しい壁を越えていかなければならないことには変わりはない。ただ、もうすでに国境を越えて、一歩を踏み出している、住みますアジア芸人のメンバーには、すでに一皮剥けている清々しさを感じました。誰か別の芸人さんとの戦いというよりも、自分との小さな戦いになんども勝ったり負けたりを繰り返してできあがった、柔らかい軸が体に一本通っているような感じ。頑丈なかたい軸よりも、柔軟に自分を支えてくれる柔らかい軸。そういう強さを持っているように感じました。
                         「日本とは別の場所でウケる」という体験をした時に、自分のなかの新しい扉がパンパンと開いていく。「世界に飛び出す」という選択をしたからこそのご褒美が、そこに待っているのではないでしょうか。
                         11組の芸人さんとお話を終えて、元吉本興業のマネージャーが心から思ったことは、ただひとつ。「ひとり残らず、全員売れてください!」でした。

                        うえへ