RECIPE

梅雨時のジョン。-レシピと雨の日の手紙-#03

ジョンのレシピと小さなコラム「梅雨時のジョン-レシピと雨の日の手紙」の3回目。今日は「海老とズッキーニのジョン」のレシピをお届けします。

食材に塩をふって小麦粉をまぶし、溶き卵にくぐらせてたっぷりの油で両面を焼くジョン。and recipeがおすすめのソウル・ハンナムにあるジョンの専門店「カンガネメットルピンデトッ(강가네맷돌빈대떡)」には「왕새우전(ワンセウジョン)」という、海老のサイズに驚くメニューがあって、海老のジョンがこんなにおいしいんだいうこともこのお店で知りました。ちなみに왕(ワン)は「王」のこと。ジョンというと一番最初に頭に浮かぶのが、この大きな海老のジョンになったのは、カンガネメットルピンデトッで食べたジョンがとても美味しかったから。ソウルに飛んでいけない時には、その季節のおいしい野菜のジョンと合わせて、家でもよく作ります。エリンギやエゴマの葉もジョンにおすすめの食材です。

海老とズッキーニのジョン

2人分
20
レベル2

材料

  • 海老 …… 6尾
  • ズッキーニ …… 1/2本
  • 小麦粉 …… 適量
  • たまご …… 1個
  • 塩 …… 適量
  • サラダ油 …… 適量

作り方

ズッキーニは、5㎜の輪切りにする。
えびは殻をむいて塩をふる。

①に小麦粉、溶き卵の順に付ける。

③フライパンでサラダ油を温め、②を入れて、両面を中火で焼き、塩をふる。

                                                           

雨の日の手紙 #03

映画「はちどり」を渋谷のユーロスペースで見たのは、梅雨の時期だった気がする。
そう思って調べてみると、日本での公開日は2020年の6月20日。「ほら、あの人」と、俳優の正確な名前をすぐには思い出してくれないわたしの大脳皮質。感覚的な部分だけはかろうじて健在で、記憶のファイリングをせっせとしてくれているようだ。

映画の舞台は、ソウルオリンピック以降、急速な民主化と経済の成長を迎えている1994年の韓国。両親・兄・姉の5人で暮らす主人公のウニは中学2年生。餅の専門店を営む両親は、子供たち全員の心の動きと向き合う余裕はない。父インギは成績優秀な兄デフンだけを気にかけている。といっても、自分の理想を兄に一方的に押し付けている状態。

店と家を忙しく行き来する母スンヨン。ウニが学校から帰ってくると「カムジャジョンを食べて。あとでお兄ちゃんのごはんも出してね」と言って、また家から出ていく。冷めたじゃがいものジョンを手でちぎり、もくもくと食べるウニ。家族と一緒にご飯を食べている時も、カムジャジョンを口に押し込んでいる時も、おいしいと味わって食事をしているようには見えなかった。

ある日、ウニの通う漢文の塾にやってきたキム・ヨンジ先生。ウニにとって、自分の話を静かに真摯に聞いてくれた初めての大人がヨンジ先生だった。先生が淹れてくれる中国茶を飲むウニの顔は、何を食べている時よりも幸せそう見えた。

ソンス大橋の崩落事故が発生。同じ頃、少し前に突然塾を辞めたヨンジ先生から、ウニに小包が届く。どうしてもヨンジ先生に会いたかったウニは先生の実家を訪ね、悲しい事実を知ることになる。何もできずにぼーっと机の上に寝そべるウニの横で、手際良くカムジャジョンを焼いていく母スンヨン。熱々のカムジャジョンをチョッカラ(箸)で小さく切り分け口に運んでいたウニが、急に何かを思い出したように手掴みで食べ始める。

子どもでも、大人でもない狭間。ひとつずつ世の中というものを知っていく過程の真っ只中。体は小さくても餌となる花の蜜を吸うために、1秒に80回も羽を動かすという벌새(ポルセ)・ハチドリのように、ウニは小さく弱いだけの存在ではない。「나도 먹고 살아야지.(ナド モッコサラヤジ)」韓国でよく聞く「私も食べて生きていかなければいけないから」という言葉が頭に浮かぶ。手づかみで口の中に押し込まれていくジョンは、ウニの中に湧き上がる生きる力を表しているように見えた。

そういえばこの映画に雨のシーンはない。

ウニが冷たいカムジャジョンを食べている時も、焼きたてのカムジャジョンを食べている時も。窓の外から雨音は聞こえてこなかった。

写真:狩野智彦
文/レシピ/雨の日の写真:and recipe