RECIPE

梅雨時のジョン。-レシピと雨の日の手紙-#04

ジョンのレシピと小さなコラム「梅雨時のジョン-レシピと雨の日の手紙」の4回目。最終回は「イカと春菊のジョン」のレシピをお届けします。

さくさくした食感と香りがおいしい春菊。ジョンにもぴったりなんです。イカと組み合わせる野菜は香りの良いものが合います。春菊のほかには、食感と香りの良いセリもおすすめの食材です。

イカと春菊のジョン

2人分
20
レベル2

材料

  • イカ …… 1杯
  • 春菊 …… 1/2束
  • ごま油 …… 適量
  • 小麦粉 …… 大さじ5
  • 片栗粉 …… 大さじ8
  • 塩 …… ふたつまみ
  • 水 …… 大さじ6

作り方

イカの胴は、輪切りにし、足は食べやすい大きさに切る。春菊は6㎝幅に切る。

ボウルに小麦粉、片栗粉、塩、水を入れてよく混ぜ、①を入れて、箸を使って混ぜる。

フライパンでごま油を多めに温め、②を入れて、両面を焼く。

                                                           

雨の日の手紙 #04

キム・テリさんが主演の映画『リトル・フォレスト 春夏秋冬』にも白菜のジョンが登場していた。疲れている時、頭を空っぽにして美しいものを見たい時。アプリを開き、掌の中で何度も見ている映画。

五十嵐大介さんの漫画が原作。日本では、橋本愛さん主演で映画化。その後韓国で、イム・スルレ監督のもとに映画化された。

父の療養のため、主人公のヘウォンが7歳の時に家族で越してきた田舎。その後父が亡くなり、ムン・ソリさん演じる母とヘウォンの二人で生活をしていくこととなった。料理上手の母が作る、四季の素材を使った魔法のような料理は、幼いヘウォンを日々ときめかせてくれる。

「キャベツのピンデトック、食べてみる?」ある日、ヘウォンに話す母。ピンデトックとは、水でふやかした緑豆を石臼で挽いたものに、野菜や肉などの具材を入れて焼く緑豆のチヂミ。母のレシピはピンデトックといっても、どうやらキャベツと小麦粉で作るよう。焼き上がったらソースをたっぷり塗って、最後に「나무(ナム)」を削るんだよと母が言うと、幼いヘウォンはびっくりして「やめてやめて」と叫ぶ。나무(ナム)は日本語で「木」のこと。木のような見た目のかたまりを、スーッと削っていくといい香りが漂ってくる。 「見てごらん、ピンデトックの上で木が踊っているよ」熱々のピンデトックの上でゆらゆら揺れる香りの良い「나무(ナム)」の正体は、鰹節。ピンデトックといえば、表面はカリっと中はふわっとしている食べ物。似たような食感のそれは、日本のお好み焼きだったのです。ジョンとお好み焼き、親戚ぐらいの立ち位置ではあるかもしれない。お好み焼きは雨の日ではなくても、嬉しい食べ物でもある。

白菜のジョンは、この映画の冒頭に登場する。都会暮らしに少し疲れたヘウォンが、故郷に戻ってくるところから物語が始まる。母のいない、がらんとした実家。家にわずかに残っていた食材だけで丁寧に食事を作るヘウォン。メニューはスジェビ(すいとん)と白菜のジョン。白菜のやわらかい葉を2枚、水で溶いた小麦粉をつけてフライパンで焼くだけのシンプルなメニュー。熱いフライパンの上で白菜の水分がパチパチと抜けていく音が、たまらなく食欲を誘う。スジェビの入ったコチュジャンのスープをすすりながら、チョッカラ(箸)で白菜のジョンを縦にさいて口に運ぶヘウォン。実際に口にしているわけではないのに、さくっとした衣の食感と、油と出会った白菜の甘味が頭の中いっぱいに広がる。

食材はシンプルだけれど、少しだけ手のかかるジョン。誰かのためにつくるとしても、自分のためにつくるとしても。シンプルだからこそ丁寧に作るとおいしいことを、この映画のワンシーンが教えてくれる。

梅雨の時期に4回にわたってお届けしてきましたジョンのレシピ。お楽しみいただけましたでしょうか。家族と、仲の良い友人と。外に出るのが億劫で憂鬱な雨の日も。冷えたマッコリを一口飲んで、ジョンを口に運んだら、はーっと息が洩れてなんだか元気になる。雨の日をたのしくするジョン。レパートリーのひとつに加えていただけたら幸いです。

明日からは7月。もうすぐ梅雨が明けて、暑い夏がやってきますね。

写真:狩野智彦
文/レシピ/雨の日のイラスト:and recipe